事例報告④ 大和ハウス工業のシニア社員活用の実態

講演者
菊岡 大輔
大和ハウス工業株式会社東京本社人事部次長
フォーラム名
第90回労働政策フォーラム「生涯現役社会の実現に向けて─高年齢者の活用の実態と課題─」(2017年3月21日)

大和ハウスと言いますと、戸建て住宅をイメージされる方も多いかと思いますが、売上に占める割合は2割強で、集合住宅や商業施設などの建設をはじめ、物流倉庫や医療介護施設なども手がけています。また最近では、本業から派生して、環境エネルギーや農業、ロボット関係の分野にも進出し、さらに中国、東南アジアやアメリカなどを中心に海外事業も展開しているので、いわゆるグローバル人材も必要としています。

当社の従業員数は約1万5,000人、売上高は一昨年度の実績で約1兆6,000億円。グループ全体の売上が約3兆2,000億円です。

シニア社員の雇用制度を段階的に拡充

当社では、少子高齢化の進展による労働力不足を補うことを目的に、シニア社員が「生涯活躍」できる道を段階的に拡充してきました。それまでは長らく60歳定年でしたが、2003年に定年後の「嘱託再雇用制度」を導入。2006年には「嘱託再雇用制度」の選定基準など、運用の見直しを図りました。翌2007年には、定年の時期を「60歳到達月」から「60歳到達の年度末」に変更・統一しました。また、2011年に「理事制度」を導入し、60歳以降も役職に残れる制度を採用しました。そして2013年、定年年齢を引き上げ「65歳定年制」を導入します。翌2014年に1年間の反省を踏まえて制度を見直し、「理事制度」の運用も見直しました。そして2015年には、65歳定年後も会社で働き続けられる制度として「アクティブ・エイジング制度」を導入しています。

シニア社員のモチベーションを維持させる制度に

当社は、業界の中では先駆けて2013年に65歳定年を導入しましたが、その狙いはシニア社員を戦力として囲い込み、モチベーションを維持させるためには、より魅力的な制度の導入が必要だったからです。建設業界では、2020年の東京五輪に向けて深刻な人手不足の状況にあります。さらに当社の場合、新規事業やグループ会社の経営者不足、海外進出の加速などを見据えると、どう考えても人が足りません。

従前の嘱託再雇用制度では、60歳定年後に残る社員は半分程でした。増加傾向にはありましたが、それでも定年を機に会社を去る人材が多い。それはあまりに勿体ないということで、何とか会社に残ってもらおうと考えました。その際、シニア社員が疎外感を感じることなく、一体感を持って仕事ができるようにするために、所属する支店の業績にも責任を負ってもらい、結果を出せば処遇で報いる人事制度にしようと考え、その答えとして選択したのが「65歳定年制」でした。

65歳定年制──評価に応じた処遇がポイント

65歳定年制では、65歳まで「期間の定めのない職員」になります。ただし60歳で「役職定年」となりますので、いわゆるキャリア転換のタイミングは60歳時に残しています。給与については、60歳到達時の職能資格級と毎年の査定で決まる基本給の部分は従前と変更していません。職員なので手当も復活させました。そして大きく変わったのが賞与です。従前の嘱託時代には年間2カ月で固定していましたが、一般社員と同様に、所属する支店や組織の業績と個人の評価・査定により変動し、支給率は一般社員のおよそ3分の2程度となっています。

年収水準で見ると、嘱託時代は定年退職前と比べて平均5~6割程度でしたが、現在は、役職定年前の平均7~8割に上がっています。もちろん個人により増減幅に違いはあります。例えば、60歳到達前も1プレーヤー(一般職)だった人は定年後もそれほど変わりません。一方、定年前に重い役職に就いていた人は、役職から外れる分、3割くらい減るという形になっています。退職金は、本来であれば65歳まで積み立て続けるべきなのでしょうが、諸事情を勘案し、60歳到達時に支給することにしました。ただ企業年金については、従来と異なり65歳まで積み立てが続きます。

図表1 「65歳定年制」の概要

「雇用の安心感」と「評価に応じた処遇」が設計上のポイントとなった。

従前の「嘱託再雇用制度」 「65歳定年制」
雇用形態 60歳で定年後、1年更新の嘱託(更新条件あり) 60歳で「役職定年」となるが、引き続き、期間の定めのない職員
給与 60歳到達時の職能資格級と毎年の査定により基本給を決定 基本給は変更なし 但し、職員対象の手当を新設/復活
賞与 年間2ケ月の固定 一般社員と同様に、支店業績および個人査定により変動(支給率は一般社員の3分の2程度)
年収水準 定年退職前の5~6割程度 役職定年前の7~8割程度
退職金 定年退職時に支給 60歳到達時に支給(変更なし)
福利厚生 企業年金の積立の対象外 引き続き、企業年金の積立の対象

参照:配布資料6ページ(PDF:594KB)

「理事」「メンター」「プレイヤー」の3コースを用意

65歳定年制の運用においては、60歳の役職定年後にどのような形で活躍してもらうのかというのが一つのポイントになります。2014年の見直しのなかで、従来の「理事コース」に加え、「メンターコース」「プレイヤーコース」というコースを設けました。その中から、自分の働き方や役割・期待を理解してもらう。つまり、シニア社員の「活躍の場」を明確にすることが、制度を機能させるカギだと考えています。

「理事コース」は、特例的に引き続き組織の長にとどまる人。例えば、○○の支店長だけれど、代わりがなかなか見つからないという時に、引き続き、その支店長を60歳以降も務めるというパターンです。「メンターコース」は、後進の指導や教育に特化したもので、例えば、B支社の工事部長だった人が安全指導の部署に移り、周辺支店の現場の安全指導を担う。そうした社員を「メンター」と呼んでいます。そして多くの社員は、「プレイヤー」として活躍してもらいます。ただ、例えばどこかの営業所長だった人が、一営業マンとして、それまで自分の部下だった人の下で営業をするかと言えば、現実的ではありません。所属していた営業所に残るのではなく、例えば営業推進部のような、銀行や税理士とパイプづくりをして、情報を営業マンにつなぐといった形で活躍してもらいます。また、もともと組織の中で1プレイヤーとして働いていた人は変わらず同じ職場で同じ仕事をしてもらいます。

3コースの人数比は、「理事コース」が約5%、「メンターコース」は約15%、残り約80%が「プレイヤーコース」になっています。会社として一番期待しているのはプレイヤーとして働き続けてもらうことなので、社内通達上では「メンターコース」は10%を上限にしています。ただ、毎年メンターへの推薦が多く、現実には上限を少し上回っています。

図表2 「65歳定年制」の運用のポイント

シニア社員の「活躍の場」を明確にすることが、制度を機能させる“カギ”。

図表2画像(「理事コース」「メンターコース」「生涯現役コース」の例)

参照:配布資料7ページ(PDF:594KB)

「アクティブ・エイジング制度」で生涯現役を

2015年に導入した「アクティブ・エイジング制度」では、65歳定年以降も年齢の上限に縛られることなく、働き続けられる制度になっています。定年後は1年更新で嘱託として残り、本人が希望して会社も必要とする場合は、70歳でも80歳になっても働いてもらいたいと当社では考えています。

給与(月20万円)が随分安いと思われるかもしれませんが、当社の企業年金を合わせると、61~65歳時と遜色ない水準となっています。勤務形態は、健康を考えて原則週4日勤務にしています。

図表3 「アクティブ・エイジング制度」(平成27年導入)の概要

定年以降も年齢の上限に縛られることなく、働き続けることが可能に。

図表3画像

参照:配布資料8ページ(PDF:594KB)

プロフィール

菊岡 大輔(きくおか・だいすけ)

大和ハウス工業株式会社東京本社人事部次長

1996年大和ハウス工業株式会社入社。以来21年間にわたり、同社およびグループ会社の人事業務を担当してきた。2013年4月に本社人事部人事グループ長。「65歳定年制」や年齢の上限なしに定年後の継続勤務を可能にする「アクティブ・エイジング制度」、遠距離介護者に親元への帰省旅費を支給する「親孝行支援制度」など、少子高齢化の進展を見据えた同社独自の制度導入を手掛ける。2016年10月に東京本社人事部次長。現在は、東京本社・本店および東日本エリアの人事部門責任者として、同社の「働き方改革」の推進を担っている。

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