ディスカッションペーパー 14-02
若年就職困難者の適性検査ケース分析に関する予備的検討
─厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)適性能プロフィールによる検討─

平成26年3月28日

概要

研究の目的

就職支援の現場では、本人の特性を原因とする就職困難性と厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)適性能プロフィールとの関連性についての「経験則」が以前から指摘されていたが、その分析的検討はこれまで行われてこなかった。本研究では、相談ケース記録から読み取れる就職困難性と、GATB適性能プロフィールとの関連性について、GATB適性能プロフィールの平均的な高さや形状といった特徴に着目し、これまで経験則で得られていた数々の仮説について検証するとともに、新たな仮説を作りだすことを目的とする。

研究の方法

  • GATB結果付きの相談ケース記録の収集と分析(全86件分)
  • 文献サーベイ
  • 研究会開催(若年就職支援機関の支援者等)

主な事実発見

分析を行う前に、相談ケース記録の文章から就職困難性の大・中・小を判断し、困難性の判断がつきにくかった中群を分析対象から一時的に除外し、「困難性・大」グループ(37件)と「困難性・小」グループ(15件)の2群(全52件)にデータを絞り込んだ。各グループに含まれる相談ケースの特徴としては、「困難性・大」は対人苦手やいじめ経験があり(「困難性・大」の全ケース中62.2%)、本人のマイペースな態度に叱責を受けた経験があり(同56.8%)、不遇感・劣等感が強い(同56.8%)という特徴があった。「困難性・小」では、温厚さや快活さがみられ(「困難性・小」の全ケース中60.0%)、TPOや場に合った言動を得意とする(同40.0%)特徴があった。

次に、各グループにおけるGATB適性能プロフィールの特徴を読み取った。

今回扱ったデータでは、GATBによって7つの適性能(知的能力(G)、言語能力(V)、数理能力(N)、書記的知覚(Q)、空間判断力(S)、形態知覚(P)、運動共応(K))が測定されているが、個人内で各適性能の凹凸の差が大きいプロフィールを取り出して検討したところ、「困難性・大」と判定されるケースでの凹凸の差(平均値)は76.5ポイントで、「困難性・小」のケースでの凹凸の差(平均63.0ポイント)と比較して明らかに大きいことが明らかとなった。すなわち、支援現場の「経験則」で言われているように、個人内の各能力の凹凸が大きいほど就職困難に陥りやすい傾向がデータでも示された(図表1)。図表1の「困難性・大」の事例は、対人不信が強い性格で、作業量が多い割に間違いが多いという支援者の所感が得られているケース、「困難性・小」の事例は、大学卒業後長年営業職に従事してきて転職希望を述べた人のケースである。

図表1 凹凸型プロフィール例の比較(就職困難性の違いによる)

図表1画像

GATBプロフィール形状を検討したところ、運動共応(K)が他の能力よりも突出して低いケースや、言語能力(V)が他の能力よりも突出して高いケースにおいて、次のような特徴的傾向がみられた。

運動共応(K)が他の能力よりも突出して低いプロフィール(全15件)については、「困難性・大」に含まれるケースは12件、「困難性・小」は3件であった。「困難性・大」の相談ケースでは、相談ケース記録に書かれている内容の特徴として、本人に動きの遅さが見られること(15ケース中9件)、不遇感や劣等感を訴えていること(15ケース中9件)、自分の将来に対する混乱状態を訴えていること(15ケース中8件)といった特徴がみられた。一方「困難性・小」の相談ケースは、件数が3件と限られている結果ではあるが、動きの遅さ等の所見はみられず、慎重な行動傾向があることや、職を転々とせず1つの職場に長く勤めるケースが3件中2件あることが明らかとなった。すなわち、運動共応(K)の能力が突出して低い特徴を持っていても、例えば本人の特性に理解のある職場等で長く就業できていたり、本人が動きの遅さを慎重な動作等によってカバーできている場合では就職困難性が低減される可能性が示唆された。

言語能力(V)が他の能力よりも突出して高いプロフィール(全3件)については、「困難性・大」に含まれる相談ケースは1件もなく、すべて「困難性・小」に含まれるケースであった。データ数が少ないため、「困難性・中」グループに含まれる言語能力(V)突出型のプロフィール(全6件)も補足的に加えて検討した。結果として、言語能力(V)突出型プロフィールをとる相談ケースの特徴として、本人の温厚さや快活さといったパーソナリティ特徴や、TPOに合った言動を得意とする記述が多くみられた。すなわち、高い言語能力を生かして職場でのコミュニケーションが円滑に行えることが、就職困難性を低減させている可能性が示唆された。

最後に、GATB適性能プロフィールの形状で凹凸が小さい「なだらか型」と、凹凸が大きい「凹凸型」の観点から、相談ケース記録における就職困難性の大小を検討した。「困難性・大」の相談ケースにおいて、GATBプロフィールの「なだらか型」と「凹凸型」を比較すると、両者ともに不遇感や対人苦手・いじめ経験の訴えが多くあり、「なだらか型」の方はその他に複数の物事の同時処理の苦手さを訴えるケースが多く、「凹凸型」の方は将来に対しての混乱を訴えるケースも多くみられた。この「凹凸型」では、個人内の一部の能力が突出して高いことで、その能力の高さを持て余してしまうような混乱状態があるのではないかと推察された。一方、「困難性・小」の相談ケースでは、「なだらか型」と「凹凸型」の両者とも温厚さや快活さといった特徴がみられていたが、「なだらか型」の方はTPOやその場に合った言動を得意とするケースが多く、「凹凸型」では長期勤続のケースが多い傾向があった。

以上をまとめると、GATBによる適性検査の結果(プロフィール)と相談ケース記録との間には一定の関連性が示唆された。同じようなプロフィール形状を持つ個人であっても就職困難性に大小の違いがある原因を推察すると、運動共応(K)の結果から読み取れるように、特性に対する職場での理解の有無(理解があれば長期勤続につながる)、不得意をカバーできるような本人の行動(慎重な行動で動きの遅さをカバーする等)が重要と考えられる。

本研究ではケース収集数が限られているため、現時点での検討はまだ中間段階にあるが、今後収集数を増やすことで、今回取り上げられなかったプロフィール特徴の検討を進める予定である。

政策的インプリケーション

特性上に何らかの困難を抱えていることで就職困難につながっている若年者に対し、相談の場で聞かれる内容に加えて、能力面の適性検査の結果を有効活用した支援を実施することで、本人の得意を生かし、不得意を避けたりカバーできるようなマッチングを実現でき、若年就職支援機関において質の高い就職支援が行える可能性がある。

政策への貢献

現時点での貢献や活用の予定はないが、今後データ収集が進み仮説の検証が進んだ段階で、得られた知見を踏まえて、若年就職支援機関向けに、適性検査結果の具体的活用等に関するマニュアルを作成する予定である。

今後の課題

現段階ではケース収集数が少なく仮説生成の段階にとどまっているため、今後も継続して相談ケース記録の収集を行い、適性検査結果と相談ケース記録との関連性をさらに追求する必要がある。

本文

研究期間

平成24年~平成26年

研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「就職困難者等の特性把握と就職支援に関する調査研究」

執筆担当者

深町 珠由
労働政策研究・研修機構 副主任研究員

関連の調査研究

入手方法等

入手方法

非売品です

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 03(5991)5104

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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