労働政策研究報告書 No.112
ものづくり産業における技能者の育成・能力開発と処遇
―機械・金属関連産業の現状―

平成 21 年 7月17日

概要

2008年後半の金融危機に端を発する急激な信用収縮は、日本経済に深刻な影響をもたらしました。しかし人材育成・能力開発に対する課題意識は引き続き、維持され続けているように見えます。とりわけ、ものづくり産業においては、激しい国際競争や国際分業体制の変化のなかで競争力を維持し続けていくためにも、技能者の育成と活用は積極的な取組みが求められる課題であることを示唆しているように見えます。

本調査研究では、典型的なものづくり産業というべき、機械・金属関連産業の企業や従業員を対象としたアンケート・インタビュー調査を実施し、中核的な技能者の育成・確保をめぐって企業がどのような取組みを進めているのか、また、育成や確保の対象となる従業員が企業の取組みをどのように見つめ、自らの能力開発やキャリア形成を成し遂げようとしているのかといった点を明らかにしました。調査における主な知見は以下のとおりです。

(1) 中核的技能者の確保・育成に関わる企業の取組みと課題

企業や事業所の競争力を支える中核的技能者の確保がうまくいっているのは、育成中心で中核的技能者を確保してきている企業である。そして、OJTを効果的に進めるための取組みやOff-JTの取組み、あるいは現場技能者の提案力・発想力を養成するための取組みを実施している企業ほど、育成中心で中核的技能者を確保してきている可能性が高い。

育成・能力開発の取組みの実施度を見ていくと、OJTを効果的に進めるための取組みや現場技能者の提案力・発想力を養成するための取組みは大半の企業が実施しているのに対し、技能者を対象としたOff-JTの取組みは実施していない企業が少なからずあり、特に規模の小さい企業、業績が悪化している企業での実施率は低くなる。こうした知見を踏まえると、中小・零細のものづくり企業が技能系正社員のOff-JTに取り組み易くなる環境の整備や、厳しい経済・経営情勢の中、ものづくり企業・事業所の育成・能力開発に対する意欲を落とさないような状況をいかに築きあげていくかが、今後の社会的な取組みにおける重要な課題ということができる。

(2) 技能者を対象とした育成・教育訓練の取組みにおける近年の動き

・ものづくり企業は「OJT をベースに社内で技能系正社員を育成する」という自前主義を見直し、必要な部分は社外の教育訓練機関を活用するという方法へと教育訓練の方法をシフトしつつある。したがって、ものづくり企業とそこに勤める個人の教育訓練活動を支える社会的基盤を整備することが重要になっており、整備にあたっては地域の果たすべき役割が大きくなってきている。

・近年ものづくり企業の間で広まりつつあるISO9001の認証取得と、企業・事業所における育成・教育訓練の取組みとの関連を分析したところ、ISO9001の認証取得に向けてより積極的な取組みを行っている企業・事業所ほど、現状の技能系正社員の人数、職務遂行能力の可視化を図り、比較的長いスパンで従業員の能力開発を進めている割合が高く、技能系正社員に対して、Off−JTを実施している割合が高いことがわかった。企業の人材育成を活性化させる一つの方法として、ISO9001の認証取得に向けた取組みを奨励することを視野に入れることは有効であると考えられる。

(3)企業の育成・能力開発の取組みと従業員の行動・意識との関係

・OJT、Off-JT、自己啓発支援といった技能系正社員の育成・能力開発のための取組みは、企業・事業所の能力開発に対する取組みが、キャリア形成に対するモチベーションを高め、ひいては企業の育成・能力開発の取組みを成功に導く可能性が高い。企業・事業所の育成・能力開発の取組みは決して無駄ではなく、技能系正社員の意識・行動といった側面から見ても効果を上げているといえる。

・「スキルマップなどで、事業所における現在の人材の数や能力レベルを把握し、能力開発を行っている」企業に勤務している者ほど、また自己啓発支援がある企業に勤務している者ほど、仕事に必要な技能・知識を身につける上で、仕事を離れた教育訓練の場(Off-JT)を、これまで効果的に活用してきている。こうした結果は、限られた投資量で、企業がOff-JTの効果を高めようとした場合に、「競争力の基盤となる能力は何であるのか」を明確にし、明確化された能力開発目標からみて、現在の社内人材はどのような状況にあるのかを把握する仕組みを導入する必要があること、また、自己啓発への支援をはじめ個人の能力開発行動への様々な支援を行う必要があることを示唆している。

本文

研究期間

平成 20年 4月~平成 21年 3月

執筆者

藤本 真
労働政策研究・研修機構人材育成部門・研究員
稲川 文夫
労働政策研究・研修機構人材育成部門 アドバイザリー・リサーチャー
大木 栄一
雇用・能力開発機構/職業能力開発総合大学校 准教授

入手方法等

入手方法

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お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 03(5991)5104
ご購入について
成果普及課 03(5903)6263 

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