資料シリーズ No.134
中小企業と若年人材
―HRMチェックリスト、関連資料、企業ヒアリングより採用、
定着、動機づけに関わる要因の検討―

平成26年 3月28日

概要

研究の目的

中小企業の人材確保は以前から問題であったが、大卒の就職が厳しい中にあっても、大学生は大企業志向であり、中小企業は必要な若者を確保できない状況が続いている。また、若者が採用できても定着が問題となることもある。ここでポイントの一つとなるのは、採用した若者がいきいきと活躍できる職場かどうかという点である。そのような職場であることは、若者の採用や定着、持てる能力の十全な発揮にもつながる。中小企業が必要な人材を確保し、その人材が活躍し、企業の業績が伸び、成長することは、中小企業にとって望ましいことであり、これによってさらに雇用が増えれば、我が国の経済や雇用にとっても望ましいこととなる。以上より、本研究では中小企業を中心として、若者等の採用、定着、動機づけに関わる要因について検討を行い、中小企業とそれを支援する行政に資する研究を行うこととした。本研究は学生、生徒、求職者やそれを支援する行政にも資するものともいえる。

研究の方法

研究の方法としては、採用、定着、職場の活性化等に関する企業ヒアリング、これまでの関連調査等の収集と整理、また、職場や仕事の状況をHRMチェックリストにより数値化し、それを分析した。

  1. ヒアリング調査

    ヒアリングは人事担当者、社長他、仕事や会社の状況がわかる方から行った。ヒアリングは2012年、2013年の主として夏から秋に行い、分析するとともに、19社の事例としても整理した。

  2. 関連調査他の整理

    中小企業の若年を中心とした採用、定着、動機づけ等に関しては、既に様々な資料がある。関連する資料を可能な限り収集、整理した。

  3. HRMチェックリストで収集したデータの分析

    データに基づき数量的に検討するため、HRMチェックリストでのデータを用いることとした。近年、モニター数が数百万人にまでなっているWeb調査によりデータを収集した。Web調査では、20歳代まで、30歳代、40歳代、50歳代、60歳以降で年齢を均等に、また企業等の規模として、従業員数が、1~30名、31~300名、301~3,000名、3,001名以上を均等に収集した。年齢5段階×規模4段階、計20区分のそれぞれに600名、計12,000名収集した。調査実施は2013年3月である。

主な事実発見

  1. ワークシチュエーション(職場や仕事の現状チェック)に関して

    ワークシチュエーション(職場や仕事の現状チェック)と企業規模の関係に関しては、「Ⅵ.能力開発・福利厚生・生活サポート」(能力開発、福利厚生、生活サポート等が整っているか)の平均値は、3,001名以上が最も高く、301人~3,000人、31人~300人、30人以下と続き、企業規模順となっている。30人以下は規模が小さいにもかかわらず、「I.職務」(仕事に自律性、達成感、成長、意義等が感じられるか)、「Ⅲ. 同僚や顧客との関係」(良い人間関係、よいチームワークか)では最も高い値となっていた。「I.職務」を構成する下位項目では、「a.達成」、「c.自律性」、「d.参画」、「e.意義」は、30名以下が最も高かった。年齢との関係では、60歳以上がすべての領域において最も高い値となっていた。また、「Ⅰ.職務」は年代による差が開いており、高いものから60歳以上、50歳代、40歳代、30歳代、30歳未満となっていた。

  2. コミットメント(職場や仕事への気持ち)に関して

    職場や仕事に対する気持ちに関して、組織コミットメント(残留・意欲、情緒的、存続的、規範的)、キャリアコミットメント、ジョブインボルブメント、全般的職務満足感のそれぞれについて数値化するための測定尺度を用意し、検討を行った。業種や従業員規模、年齢、性別、職種によりコミットメントの高さが異なっていた。規模に関しては、組織コミットメント(存続的:その組織を去ると失うものが多いから留まる)は3,001名以上が高いが、キャリアコミットメント(自分の専門分野を重要と思い、それに留まりたいと思う度合い)、ジョブインボルブメント(仕事を重要と思い、仕事に没頭している度合い)、全般的職務満足感(自分の職務に関する全般的な満足感)は30人以下が高かった。また、年代が上がるほど、キャリアコミットメント、ジョブインボルブメント、全般的職務満足感が高くなっていた。ワークシチュエーションⅠ~Ⅵの6領域(職務、上司やリーダー、同僚や顧客との関係、ビジョン・経営者、処遇・報酬、能力開発・福利厚生・生活サポート)から、7つのコミットメントを個別に従属変数とした因果関係の分析を行ったところ、全てのコミットメントに対して有意な正の関係を示したのは「能力開発・福利厚生・生活サポート」であった。図表1は組織コミットメント:OC(残留・意欲:「組織の目標・規範・価値観の受けいれ、組織のために働きたいとする積極的意欲、組織に留まりたいという強い願望によって特徴づけられる情緒的な愛着」、ポーター他)に対する、ワークシチュエーションⅠ~Ⅵの6領域の関係をみたものである。「能力開発・福利厚生・生活サポート」が大きな影響をもつことがわかる。「能力開発・福利厚生・生活サポート」は規模が大きくなると充実すると考えられるが、因果モデルにおいて、規模は7つのコミットメントいずれにおいてもそれを高める要因ではなかった。次いでコミットメントと有意な正の関係がみられる傾向にあったのは「職務」であった。「職務」は、キャリアコミットメント、ジョブインボルブメント、全般的職務満足感との強い関係がみられ、職務や専門分野にコミットし、仕事の全般的な満足を得るためには、職務を工夫し、職務内容を充実させることが有効といえる結果であった。

  3. ストレス反応(職場や仕事でのストレスをめぐる状況)に関して

    ストレス反応は若年ほどネガティブなストレス反応(抑うつ気分、不安、怒り、身体反応)が高いという結果であった。男女では30歳未満では男性よりも女性の方がネガティブなストレス反応が高かった。

    ワークシチュエーションの6領域(同上)とストレス反応の関係では、「同僚や顧客との関係」、「能力開発・福利厚生・生活サポート」が悪いと、ネガティブなストレス反応(抑うつ気分、不安、怒り、身体反応)が高まる。また、「職務」、「同僚や顧客との関係」、「能力開発・福利厚生・生活サポート」が良いと「高揚感」が高まる、という関係がみられた(図表2)。

  4. ヒアリングより

    中小企業等のヒアリングでは、会社や組織が小さいことによって、裁量権があり、広い範囲のまとまった仕事を任される事例が多かった。開発や制作等、達成感のある仕事が中小企業にもある事例もあった。上記「Ⅰ.職務」の要素が良いと考えられる事例といえる。

図表1 ワークシチュエーションと組織コミットメント:OC(残留・意欲)の関係 (共分散構造分析の結果)

図表1画像

図表2 ワークシチュエーションとストレス反応の関係(共分散構造分析の結果)

図表2画像

政策的インプリケーション

労働政策研究・研修機構(2012)では、中小企業と大企業を比較し、中小企業において、キャリアコミットメント、ジョブインボルブメント、全般的職務満足感が高いことを見出しているが、今回、Webによりデータ収集した結果においても、同様の結果がみられた。大企業と中小企業では何でも大企業の方が良いイメージがあるが、このような点は中小の方が良いことになる。事例からも中小の方が、裁量権があり、広い範囲のまとまった仕事を任される事例がみられ、中小にも開発や制作等、達成感のある仕事がみられた。中小にも良いところはあるといえる結果である。若者としては、中小企業について、「若者応援企業」や厚生労働省から公表される定着率等も確認し、選択肢を広げるとよいといえる。

また、組織に留まりたいという「組織コミットメント(残留・意欲)」は「能力開発・福利厚生・生活サポート」が大きく影響していた(図表1)。「能力開発・福利厚生・生活サポート」を整備、充実することが定着につながるといえる。

政策への貢献

必要な若年を集められない中小企業は多いが、中小の中にはここで示したように良い部分もあり、これから伸びる中小もある。伸びる中小を支援し、それによって若年を含め雇用が全体として良い方向に進むことは重要な政策であり、これに資する研究といえる。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「就職・採用実現のためのマッチングとコンサルティングに関する調査研究」

研究期間

平成24~25年度

執筆担当者

松本 真作
労働政策研究・研修機構副統括研究員
太田 さつき
東京富士大学 教授
佐藤 舞
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員/早稲田大学大学院
安永 正夫
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員/早稲田大学大学院

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入手方法等

入手方法

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お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 03(5991)5104
ご購入について
成果普及課 03(5903)6263

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