従業員のモチベーションをめぐる法的課題

要約

土田 道夫(同志社大学教授)

従業員のモチベーションは、そのパフォーマンスを規定し、企業業績にも大きな影響を与えることから、従業員のモチベーションを高めるための施策が重要となる。このモチベーション施策も、従業員のパフォーマンス向上に向けたモチベーション施策と、従業員に働きやすい環境を提供することを通してモチベーションを高める施策に分かれる。では、労働法は、それら施策に対していかなるスタンスを採用し、どのように規律しているのであろうか。本稿は、賃金制度、労働時間制度、能力開発・キャリア制度・人事制度、解雇法制、職務発明制度に即してこの課題を検討した。その結果、労働法は、基本的には働きやすい環境を提供することでモチベーションを高める施策を推進しているが(労働時間法制、解雇法制等)、近年には、新たな法制度・法的ルールを通して、従業員のパフォーマンス向上に向けたモチベーション施策を推進していることが分かった(成果主義賃金制度、ストック・オプション、裁量労働制、能力開発・キャリア制度、職務発明と相当利益請求権等)。また、日本は、厳格な解雇法制を採用しているが(労働契約法16条)、近年の裁判例によれば、従業員が能力向上や成果の達成に向けて誠実に努力する姿勢すら欠いている場合は解雇が有効とされ、これがモチベーション・ツールとして機能することも判明した。さらに、近年における雇用平等法制の強化は、働きやすい環境の重要なモチベーション指標である「ダイバーシティ経営」を促進する意義を有している。企業は、こうした労働法のルールを経営への桎梏として捉えるのではなく、それらルールを基礎に先進的な人事施策を進めることが従業員のモチベーションを向上させ、ひいては自社の企業価値を高めるとともに、株主価値の向上をもたらすことを認識して行動すべきであろう。

2017年7月号(No.684) 特集●モチベーション研究の到達点

2017年6月26日 掲載